全米終盤、コーチが買った意外な物は 大坂なおみV秘話
9月、ニューヨーク。テニスの全米オープン女子シングルスを初制覇した大坂なおみ(日清食品)は、表彰式で涙した理由を「いろんな感情がこみ上げた」と明かした。喜びの一方、極限状態から解き放たれた安堵(あんど)感がにじんだ。
20歳は勝ち進むにつれ、経験したことのない重圧に押しつぶされそうになっていた。元世界女王セリーナ・ウィリアムズとの決勝前日も、食べたものがのどを通らず、眠れなかったという。サーシャ・バイン・コーチによると「ナオミはメンタル的に参っていた」。
テレビをつければ大会の様子が映され、気が気でない。SNSで自分のことが書かれていないか不安になる――。バイン氏は「気を紛らわせ、リラックスさせるにはどうすればいいか頭をひねった」。
大会終盤にひらめいたのが、プレイステーション。大坂が遠征先にも持ち歩いている家庭用ゲーム機だった。ただ、宿泊先のホテルでは、テレビに機器が接続できなかった。そこで、家電店でテレビを購入して持ち帰った。大坂は、そばにいなかった1歳上の姉まりさんを相手に、オンラインでゲームを始めた。
普段に近い環境を整え、力を発揮してもらうための行動。バイン氏は「やり過ぎなのかも知れないが、僕はそういう人間。献身的で、一緒にいる選手のことが最優先」と語る。
決勝当日。試合の2時間前にジムで汗を流し、ボールを打つ。大坂は自分を見失わず、やるべきことをこなした。だから、コートに入った後もボールに集中できた。地元のセリーナに警告を与えた判定に対する、観客の大ブーイング。それを耳にしながら、4大大会のタイトルに初めて挑む若者は動じなかった。
「決勝で何が起こったにせよ、人生最大のステージに上がる時に、コーチも、両親でさえも、彼女を助けることはできない」。バイン氏はそう振り返ったが、二人三脚の支え、出来うる限りの準備が尽くされていなければ、日本テニス界初の快挙は先延ばしになっていたかもしれない。
10月、シンガポールで今季最終戦を終えた後、大坂は言った。「サーシャは騒々しくて、すごくよくしゃべる。でも、一生懸命。だから彼が近くにいてくれて、とてもうれしい」